2018.10.1(MON)
@Shibuya TSUTAYA O-nest
OPEN: 18:00 / START: 19:00

mights interview

betcover!! ヤナセジロウ


betcover!!はバンドか否か―。もしかしたらヤナセジロウがバンドに至る物語を見ているのかもしれない。先日リリースされた2nd ep「サンダーボルトチェーンソー」で彼が体現したJ-POPや同世代への想い、そして自身の使命感について、力強い言葉の1つ1つをぜひ聞いてほしい。


── この新作2nd ep『サンダーボルトチェーンソー』は、前作からわずか8ヶ月でリリースされるわけですけど、成長、進化度合いがハンパじゃないなと思って。

ヤナセ (黙って頷く)


── 前作はスケッチとしてのデモ集であり、ヤナセくんの音楽宇宙を広げる最初の突破口という印象があって。でも、そこからこの短期間でソングライティングもサウンドプロダクションもボーカルもbetcover!!流のポップスとしての核を形象化させていて。正直、かなり驚いたんですけど、ヤナセくん自身はどういう手応えがありますか?

ヤナセ 前作はバンド活動を始めてまだライブを2回しかやったことのない状態でレコーディングしたから、単純にすべての面で下手だったというのがあって。


── じゃあ前作を録り終えたときにはすでにやりたいことがあった?

ヤナセ ありました。前作のレコーディング中に今作に入っている「平和の大使」を作っていたので。もう次に目がいっていたし、やりたいことは相当ありました。今作は基盤を作らなきゃいけないと思ったんです。前作のイメージを払拭するというか。



── どんなところを払拭したかった?

ヤナセ いや、もう、すべて塗り替えちゃいたいと思ってました。演奏、歌、音。まず、大元となる楽器編成もシンプルにして、ベーシックな形を作りたいなと思って。あと、アルバムとしてわかりやすい作品を作りたいと思いました。


── 前作は最初の1枚だからこそ出たローファイ感もあったと思うけど。

ヤナセ いいローファイじゃなかった。自分が好きなローファイじゃなくて、足りてないローファイだったので。だから、みんなから評価を受けなくても納得しちゃうというか。自分自身が「これでいいんだよ」とは言えない。自分でも納得してないから。あれがいいと言われてもなんとも言えない。だから、早く次の作品を出したいなって。今回は邦楽を意識したんです。


── 日本人としてのポップス。

ヤナセ そうですね。本当はダンスミュージックも好きだし、最初はダンスミュージックやブラックミュージックをやりたいという思いがあったんだけど、それを一度止めて、まっさらな状態で歌を作ろうと思った。前作はサウンドを優先して作っていたけど、今作は歌を中心にして。今作はというか、これからは歌を中心に作りたいなと思ったんです。ポップスというよりもJ-POPですね。音的に言うと90年代のヒップホップみたいなノリを軽く混ぜるというか。もともとEarth, Wind & Fireとか好きなんですけど、結局、僕があの人たちの好きなところってメロディだったのかなと思って。ポップソングとして好きだったというか。だから、一旦メロディに意識を向けて、今後はそのうえでダンスミュージックをやりたいなと思って。


──ヤナセくんって転調が好きですよね? 転調して展開を劇的に変えても自然に身体を揺らせる、踊れる曲を追い求めてるんだと思うんですよね。あとは、自分で曲を作り、演奏していて飽きたくないという思いが垣間見られる。

ヤナセ 人の曲を聴いてもよっぽど好きじゃないと後半まで聴けないことが多くて(笑)。展開に驚きは求めてますね。でも、今回は転調をなるべく抑えたんですけどね。意図的に転調したのは2、3曲だけで。


──現在はニトロデイのリズム隊がレコーディングとライブをサポートしてますけど、本当は固定のメンバーとバンドをやりたいんですよね?

ヤナセ そうなんです。それでメンバー募集してるんですけど、なかなかいい出会いがなくて。いい出会いはずっとないです(苦笑)。同世代の人とバンドをやりたいんです。歳上の人たちとやったら絶対上手くなると思うけど、同世代とやるとそれとは違う何かがあるはずで。音楽的にも若い人とやりたいという思いが強いです。“ソロプロジェクト”とか言われるのもあまり好きじゃない。なんか、ダサいなって。“シンガーソングライター”も違うし。やっぱりバンドがカッコいいと思うので。


──それにしても『サンダーボルトチェーンソー』ってタイトルもいいなと(笑)。邦画のカルト作品みたいな。

ヤナセ 遊びです(笑)。まじめにやればやるほどユーモアがほしくなるんですよね。今回の曲の空気感でいくと、こういうタイトルじゃなきゃダメだなと思って。このタイトルはフィッシュマンズの『Chappie,Don’t Cry』みたいな語感にしたいなと思って。曲の感覚的にも『Chappie,Don’t Cry』のころのシンプルな初期の空気感みたいなものを感じてもらえるといいかなって。『Chappie,Don’t Cry』から『Orange』にいって、『空中キャンプ』にいくみたいな。


──確かにそういう成長の変遷を同世代のメンバーと辿っていけたらいいですよね。

ヤナセ そうなんですよね。でも、同世代で自分と同じような考えを持ってる人が少なすぎるから。最近それを痛感してます。前はもうちょっといると思ってたんですけど、いないものですね。



──betcover!!のMVやアーティスト写真を撮っているクリエイターは高校生だったりするんだけど、バンドメンバーとは出会えないというのはちょっと皮肉というか。

ヤナセ そうですね。今の日本の音楽シーンはカルチャーというより消費ラインに乗っていて、昔とは全然違うと思うんですよ。今は写真や映像のほうがカルチャーとして成長してると思う。かつては音楽もそうだったんだけど、分断しちゃって、最近またやっと繫がってきたのかなって思うんですけど。でも、音楽も写真も映像も本質的なカルチャーの繋がりはない気がしますね。映像も写真も誰でも撮れる分、薄くなっちゃってる気がするし。フィルムカメラを使えばそれっぽくなっちゃう時代だから。そこから差別化を図るのは難しい気がする。だから、同世代でも写真を撮ってる人は多いけどグッとくる人は少ないですね。


──どこからアートと捉えるかというのはより見せ方によるところが大きくなってるかもしれない。

ヤナセ 思うのは、僕はカルチャーというよりは芸術に寄ってる人が好きなんです。カルチャー発信ではなく、アート。だから、本当にアートをやってる人は発信してないかもしれないし、簡単には見つけられないのかもしれないなとは思いますね。音楽をアートとしてやっている人は本当に少ないと思います。やっぱりInstagram越しでは質感が伝わらない写真や絵画ってあるから。だから、そういうアートを作ってる人はそもそもインターネット上には作品を発表しないと思う。


──音楽に対してもそう思ってるでしょう?

ヤナセ 思ってますね。ライブも今後はライブハウスじゃない場所でやってみたいなと思っていて。音源もストリーミング中心になってきて、どんどん仮想的なものになっているから。だから、スピーカーも通さずにライブをやってみたいんですよね。それをコアな感じにしたり自己満足で終わるのではなくて、ちゃんと音楽が広がるようなライブがしたくて。


──濃く広げるというか。

ヤナセ そうですね。仲間とワイワイ騒いだりするのが得意じゃないので、濃く伝えたいですね。


──群れるのは好きじゃない。

ヤナセ 一緒に群れる人もいないです(笑)。


──そういう誰とも価値観を共有できない孤独感みたいなものは幼いころから感じていましたか?

ヤナセ ずっとありましたね。小学生のころは映画監督になりたかったんですね。で、映画を作ろうと思って手伝ってくれる人は10人くらい集まるんですけど、まじめに取り組むのは僕だけで。


──小学生のときに映画を撮ってたの?(笑)。

ヤナセ 小3くらいで撮ってましたね。でも、2回挑戦したんですけど、どちらもシーンを2つくらい撮っただけで終わっちゃって。


──脚本もヤナセくんが書いて?

ヤナセ 僕が書きました。家の近所でアクション映画みたいなものを撮ったんですけど。警察の取り締まりのシーンだけ映像で残ってます(笑)。映画はずっと大好きで。特にSF映画が好きでした。


──確かに前作にはローファイなSF感があるなと思う。

ヤナセ SF的な世界って逃避できるんですよね。


──でも、今作は逃避というよりも、土の上に立っている感じがありますよね。

ヤナセ そこは意識しました。宇宙から降り立った感じは一つのコンセプトでもあって。まだ足はついてない感じですけど(笑)。


──ジャケットでも木に登ってるしね(笑)。

ヤナセ そうですね(笑)。でも、フワッとした感じに思われたくないなって。でも、まだ(betcover!!を)理解してくれている人は少ないので。今作でも「平和の大使」を1曲だけ聴いたりしたらユルい平和の休日みたいなイメージに捉えられちゃうかなという危惧はあるんですけど。


──実際はかなり苛立ってますよね。

ヤナセ そう、自分の中ではユルさとは真逆の思いがあるんですけど。ちょっとオブラートに包んじゃったかなと思うところはありますね。


──それはポップスと向き合ったからこそ包んだオブラートでもあるんですかね?

ヤナセ それもありますね。でも、本当はちゃんと聴けば剥がれるオブラートだと思うんですよ。今の日本は考えるのを止めちゃってる人が多いと思うから。平和ボケのまま生きていけるというか。だから、今の時代は音楽にメッセージが求められてないんだろうなと思いますね。とにかくチルしたいとか、そういう感じだと思う。


──あらかじめ諦観が漂ってる時代だと思うんですよね。変化することをあきらめている時代というか。

ヤナセ 周りの人から見ると、僕は諦めてる感があるって言われるんですよ。音楽的にも。でも、それは逆で。真逆に伝わってるのがちょっと面白いなとさえ思うんですけどね。いや、確かに諦めているところはあるんです。すべてのカルチャーは2000年で終わったと思っているので。ここからカルチャーの進化はないだろうと思ってる。でも、そのままでいいやとは思ってないんです。諦めているけど、諦めてないんです。諦めてないから自分の音楽が伝わってほしいと思う。広めたいと思う。今はバンドでも広がる前に局地的に火がついて盛り上がったら終わりだと思っていて。そこには界隈の人の諦めも感じるし。広めようとしてないなって。今は世界的に見てもヒップホップだけが広がるような感じがあるけど、ヒップホップ以外の音楽をもっと活性化して広げられたらいいなと思ってます。


──日本のヒップホップがカルチャーとして広がっているかといったらなんとも言えないしね。

ヤナセ そこも日本だと一般受けするのはチルな感じなんだなって。ヒップホップでも海外だったらリリックの内容が重視されるじゃないですか。でも、日本は雰囲気が重視されるんだなって。バンドもそう。雰囲気だけでメッセージはない人が多いと思う。だから、音楽にとって平和というのは不謹慎だけど──。


──毒かもしれないと思う?

ヤナセ 音楽の発展にとっては悪影響を及ぼすこともあると思いますね。歌うことがなくなっていくから。だから、平和ボケの時代が終わることをどこかで望んでるイメージはずっとあって。前作はそういうメッセージはなかったんです。というか、入れたくなかった。


──それはなぜ?

ヤナセ 音楽を避難場所だと思ってたから。社会からの逃避。でも、その空気はもういいやって。だから、攻撃をしたくなったんです。19歳の僕がこういうことを言うといろいろ言われるんだろうけど、気にせずやっていこうと思って。


──若さだけにフォーカスを当てられるのは違うよね。

ヤナセ イヤですね。一番嫌いな言葉が“末恐ろしい”。末恐ろしいってけっこう言われるんですけど、今は恐ろしくないってことじゃないですか。なめられてるなと思って。今作を20代で出したらそんなこと言われないと思うし。若いということに危機感がありますね。自分より歳下の人に何もされたくない、自分の手の内に収めておきたいという意識が伝わってくるから。そういう人の話は聞かないようにしてますね。今作は歌詞もメッセージをいれる分、ユーモアを入れないとなと思ったんです。


──ユーモアと色気は大事ですよね。

ヤナセ それは絶対にないといけないと思いますね。歌詞に対して何か言われても「そうではない」って自信を持って言えるものにしたかった。たとえば「新しい家」のサビの〈シンプルライフ〉というフレーズ。これは相当なユーモアとディスを込めていて。


──「キャンプファイヤー」というタイトルも皮肉ですよね?

ヤナセ そうですね。皮肉ですね。地元の多摩川の風景なんですけど。「キャンプファイヤー」は全体的にあえて子どもっぽい感じにして。どれだけダサい言葉を入れられるかということを意識しましたね。ファッション性みたいなところから離れたかったから。そういうところもフィッシュマンズから影響を受けてますね。もうちょっとわかりやすい感じですけど。もっと刃を見せてディスということを意識してもらわないとまったく意味のない曲になってしまうので。今後はもっと歌詞もミニマルにしていきたいですね。


──ヤナセくんの指針とか美学とか哲学と照らし合わせると、どんどんアヴァンギャルドな表現に向かってもおかしくないんだけど、ポップスに向かっているというのがいいなと思う。本質的だなと思うし。

ヤナセ ポップスにするのをやめちゃえばいくらでも曲はできるんですけどね。でも、挑戦しないといけないと思って。自分の考えは絶対に必要なことだと広めたいという思いがあるので。


──ポップスって大衆に媚びることじゃないですからね。本気で社会と向き合う態度でもあると思うから。

ヤナセ そこをあきらめちゃうと本当にやっていけないし、ただ音楽が好きで鳴らしている人ではなくなってしまったので。だから、ポップスではなくJ-POPって呼ばなきゃいけないと思うんです。何かを考えるきっかけになりたいので。本当はすごく神経質な性格だし、批判をされるのも怖いんですけど、それでもやらないといけないから。今後はもっと勇気を出して突っ込んでいきたいですね。マイケル・ジャクソンもデヴィッド・ボウイもモーリス・ホワイトも忌野清志郎も佐藤伸治もいなくなってしまって、それがしんどくて眠れなくなるときもあるんです。「誰に頼ればいいんだろう?」って。でも、そこもあきらめてるけど、あきらめたくないんです。絶対的な人になりたいから。周りからは「考えが幼いからもう少し大人になれ」って言われるんですけど、子どものために絶対的な人になりたいんです。子どもに絶対危害を加えない存在になりたい。日本だと僕みたいな考えの人は引きこもっちゃう人が多いと思う。


──でもヤナセくんには鳴らしたい、歌いたい音楽があった。

ヤナセ そう、音楽があったから。音楽がないとしんどくて何もできないので。これからもっとすごい作品を作れると思うので。今作ってる曲たちは今作の何百倍もいいという自信があります。



取材・文: 三宅正一
編集: 酒井慎司


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